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■サンスクリット語やパーリ語などで書かれたお経を、漢語に訳すことを訳経やっきょうとか翻経ほんぎょうといいます。 ■中国では、後漢から元の時代まで、千年以上、訳経が続けられました。 ■国王の命令により翻訳したものを、奉詔訳ぶしょうやくと言います。 |
翻訳は一人で行われたものもありますが、多くは何人かで役割分担して、効率よく行われました。翻訳する作業場を訳場といいます。訳場は訳経道場の意味です。 訳場は、時代と共にしだいに規模が大きくなり、宋の時代には国家機関として翻経院とか訳経院などと呼ばれるものが造られ、大型プロジェクトになると800人を超える場合もあったようです。 訳経事業は国王の保護のもとに行われることが多かったので、訳場は大寺院だけでなく宮殿禁苑内にも置かれました。
訳場内には、訳場九位と呼ばれる役割分担がありました。 1.訳主やくしゅ 梵語で記されたお経を読上げ、漢語に訳す役。 2.証義しょうぎ 訳主の左側で、訳が適切かどうかを判定する役。 3.証文しょうもん 訳主の右側で、訳主の読む梵文に誤りがないかを確認する役。 4.書写しょしゃ 梵文を聞いて、梵語の発音をそのままを漢字に写す=音写する役。 5.筆受ひつじゅ 訳主の訳した言葉をそのまま筆記する役。 6.綴文てつもん 筆受した漢文をより漢文らしい形に直す役。 7.参訳さんやく 梵文と漢文を比べて誤りのないようにする役。 8.刊定かんじょう 冗長の文を削って句の意味を定める役。 9.潤文じゅんもん 訳した文を潤色する役。 訳場には、文字・音韻の学者、文学者、哲学者、中国古典学者などがいて、出来上がった文章をそれぞれの分野から検討し、完成度を高めました。 そして、完成した漢訳文は再び訳主に廻され、もう一度、原本と比較し、間違えがなければ清書され完成となります。 訳者としては、代表として訳主の名前が記されます。
翻訳されたお経の目録を経録といいます。 経録には、お経のタイトル、巻数、訳主、訳した時期、初めての翻訳か別訳があるか、有本・欠本の別、真経・偽経の別、全訳・抄訳の別、大乗・小乗の別、経律論のいずれに属するか、など色々な情報が載せられています。 現存する経録は、元の時代までのものが約20種類ほどあります。作られた時の目的により、年代別、内容別、どこの寺に収蔵されているか、これらいくつかの組み合わせ、総合的なもの、などの特徴があります。
語学に精通して、訳経に従事した僧侶は訳経三蔵と呼ばれました。唐の時代の経録には、約180名ほど挙げられています。 その中で鳩摩羅什くまらじゅうと玄奘げんじょうは、訳し方の指標とされる人で、次のように分けられます。 鳩摩羅什は、道安という人が示した理想的翻訳を実現した人で、鳩摩羅什が訳した維摩経・妙法蓮華経・金剛般若経などは名文と言われています。 玄奘は、音写をサンスクリット語の正しい発音から訳し直したり、訳文の統一や語学的に原文に忠実になるよう努力した人です。 初期に訳された物は、中国社会に受け入れられやすいよう、翻訳に工夫がこらされていました。 |
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